- 17 Sep 2005
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- #26
第10話
牛商人は、うっかり、悪魔の手にのったのを、後悔した。
このままで行けば、結局、あの「ぢやぼ」につかまって、
体も魂も、「亡ぶることなき猛火」に、焼かれなければ、ならない。
それでは、今までの宗旨をすてて、波宇寸低茂(はうすちも)をうけた甲斐が、
なくなってしまう。
が、御主耶蘇基督(キリスト)の名で、誓った以上、一度した約束は、
破る事が出来ない。勿論、フランシス上人でも、いたのなら、
またどうにかなる所だが、生憎、それも今は留守である。
そこで、彼は、三日の間、夜の眼もねずに、
悪魔の巧みの裏をかく手だてを考えた。それには、どうしても、
あの植物の名を、知るより外に、仕方がない。
しかし、フランシス上人でさえ、知らない名を、
どこに知っているものが、いるであろう・・・。
牛商人は、とうとう、約束の期限の切れる晩に、又あの黄牛をひっぱって、
そっと、伊留満の住んでいる家の側へ、忍んで行った。
家は畑とならんで、往来に向っている。行って見ると、
もう伊留満も寝しずまったと見えて、窓からもる灯さえない。
丁度、月はあるが、ぼんやりと曇った夜で、ひっそりした畑のそこここには、
あの紫の花が、心ぼそくうす暗い中に、ほのめいている。
元来、牛商人は、覚束ないながら、一策を思いついて、やっとここまで、
忍んで来たのであるが、このしんとした景色を見ると、何となく恐しくなって、
いっそ、このまま帰ってしまおうかと云う気にもなった。
殊に、あの戸の後では、山羊のような角のある先生が、
因辺留濃(いんへるの=インフェルノ?)の夢でも見ているのだと思うと、
折角、はりつめた勇気も、意気地なく、くじけてしまう。
が、体と魂とを、「ぢやぼ」の手に、渡す事を思えば、
勿論、弱い音なぞを吐いているべき場合ではない。
牛商人は、うっかり、悪魔の手にのったのを、後悔した。
このままで行けば、結局、あの「ぢやぼ」につかまって、
体も魂も、「亡ぶることなき猛火」に、焼かれなければ、ならない。
それでは、今までの宗旨をすてて、波宇寸低茂(はうすちも)をうけた甲斐が、
なくなってしまう。
が、御主耶蘇基督(キリスト)の名で、誓った以上、一度した約束は、
破る事が出来ない。勿論、フランシス上人でも、いたのなら、
またどうにかなる所だが、生憎、それも今は留守である。
そこで、彼は、三日の間、夜の眼もねずに、
悪魔の巧みの裏をかく手だてを考えた。それには、どうしても、
あの植物の名を、知るより外に、仕方がない。
しかし、フランシス上人でさえ、知らない名を、
どこに知っているものが、いるであろう・・・。
牛商人は、とうとう、約束の期限の切れる晩に、又あの黄牛をひっぱって、
そっと、伊留満の住んでいる家の側へ、忍んで行った。
家は畑とならんで、往来に向っている。行って見ると、
もう伊留満も寝しずまったと見えて、窓からもる灯さえない。
丁度、月はあるが、ぼんやりと曇った夜で、ひっそりした畑のそこここには、
あの紫の花が、心ぼそくうす暗い中に、ほのめいている。
元来、牛商人は、覚束ないながら、一策を思いついて、やっとここまで、
忍んで来たのであるが、このしんとした景色を見ると、何となく恐しくなって、
いっそ、このまま帰ってしまおうかと云う気にもなった。
殊に、あの戸の後では、山羊のような角のある先生が、
因辺留濃(いんへるの=インフェルノ?)の夢でも見ているのだと思うと、
折角、はりつめた勇気も、意気地なく、くじけてしまう。
が、体と魂とを、「ぢやぼ」の手に、渡す事を思えば、
勿論、弱い音なぞを吐いているべき場合ではない。